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レセプト病名

レセプト病名という言葉があります。レセプト病名は、病院や診療所の事務職員にはよく通じる言葉ですが、一般の人には分かりにくい言葉だと思います。


医療機関では、患者さまに処置や検査などを行い、それを診療報酬請求書(この請求書を通称レセプトと言います。以下レセプトと表示)にその内容を記載し、都道府県毎にある支払基金や国保連合会というところに請求を行います。


その際、どうしてその処置や検査を行ったかが分かるように病名やその病名の診療開始日も併せて記載しなければいけません。病名は実施した処置や検査の必要性の根拠となるものです。そのため、処置や検査を実施してもレセプトにその検査の根拠となる病名が無ければ、その処置や検査は査定され費用は医療機関に支払われなくなります。


逆に言いますと、必要な病名さえあれば実施した処置や検査は支払われるという事になります。これを悪用して必要でも無い検査を実施して、その検査にマッチする病名を付けて請求するという事があり社会問題になった事があります。


レセプト病名という言葉はレセプトの内容が査定されないように、実際にはなってもいないのに付けられた病名として表現されたりします。これは間違いとは言えないと思います。しかしながら、そこには多くの問題があると思っています。レセプト病名は極めて遺憾と厚生労働省の作成した「保険診療の理解のために」という文書には記載されていますが、厳密に運用されれば困る事も多いのです。


収入を上げるために不正に検査をするとか言った事はもちろん許される事ではありません。ただ、グレーなケースも多くあると思います。例えば、副作用として肝機能障害を伴うお薬を処方されたとします。この場合本来のあり方とすれば、お薬を服用する前に肝機能を調べておくべきだと私は思います。


肝臓は沈黙の臓器と言われ、自覚症状が出て来た時にはある程度悪くなった時だと言われています。お薬を服用しその後肝機能に異常があると分かった時に、もともと肝機能が悪かったのか、処方されたお薬のために肝機能が悪くなったのか分かりません。もともと肝機能に異常があったのであれば、そのお薬の継続も可能かも知れませんが、肝機能に異常が無かったのであればすぐにそのお薬の服用を中止し別のお薬を探す事になるでしょう。


しかしながら、処方をする前に肝機能に異常が無いのかを調べようとすれば、「肝機能障害の疑い」という病名を付けないと調べる事が出来ません。査定されるからです。医療機関によっては、肝機能の検査をして病名を付けるか、レセプト病名を付ける事になるので検査をしないか、悩むところでは無いでしょうか。


また、CEAという癌の血液検査があります。ずいぶん前には数多く実施され、「大腸癌疑い」などの病名が付けられレセプト請求されていました。ところがその使用頻度が高いためか、検査に対して条件が付くようになりました。この検査を実施するためには「診療及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者に対して行った場合に1回に限り算定を認める」というように変更されました。少しぐらい疑いがあってもこの検査を実施するなというものです。レセプト病名で止められないものは、規定でしばるという事になっています。


こういった例がたくさんあるのです。請求そのものが適正であるかどうかの判断をするためだけに作られた査定システムがもたらす矛盾だと思っています。国民の健康を守るより医療費の拡大を防ぐという事だと私は思っています。このような決定は2年に一度の厚生労働省の会議で行われます。


毎年厚生白書が厚生労働省から出されていますが、直近の2019年の報告書では国民一人当たりの医療費はOECD加盟国の中では15位、アメリカの半分以下です。GNP比では5位で、アメリカの17.0%に対し日本は11.1%となっています。このレセプト病名という言葉に国民の命や健康を守るための何かが犠牲にされているような気がしています。疑いや病気の可能性が少しでもあればもっと検査などを進めるべきだと思っています。


また、支払基金や国保連行会も査定ばかりでは無く、もっと適正な医療を推進する立場で活動をして欲しいとも思います。この病名があるのにどうしてこの検査をしていないのかと言った動きが何故出来ないのかと思います。それが出来ればもっと早期診断や早期発見につながります。併発症なども見つけやすくなると思います。レセプト病名=単純にダメな医療では無く、また最低限必要な医療ではなく、適正な医療を受ける事が出来るように法整備をして欲しいものだと思います。


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