転倒・転落事故は病院や介護施設の最重要課題の一つとなっています。2019年6月に医療事故調査センターから出された「入院中に発生した転倒・転落事故による頭部外傷に係る死亡事故の分析」によると、2015年10月~1018年12月末の間に18例あったという事です。また、一般病床における転倒・転落事故発生率は、1日1,000床あたり、1.5件程度と考えられるということでした。
この考えられるという表現は、全数把握がしっかり出来ていないためです。この一般病床という記載は、療養病床や精神科病床、介護施設は入っていないという事です。ちなみに、1日1,000床あたり1.5件という数字は、現在日本には約98万床の一般病床がありますので、毎日1,470件の転倒・転落事故が発生している事になります。更に、療養病床・精神科病床は66万床あり、そこでの転倒・転落事故は一般病床の3倍程度と言われていますので、毎日3,000件近い転倒・転落事故が発生している事になります。これに老健・特養と言った介護系施設の数が7,000件ぐらい加わり、合計で1日1万件ぐらいになるのでは無いかと私は予想します。これらの数字は、転棟・転落事故がどれだけ多く発生しているかイメージが出来たらと思い記載しました。
ただ、転倒・転落事故と言っても、定義では「自らの意思なしに、地面や床、あるいはそれより低い場所などに、手・膝や頭部などが接触すること」となっていますので、一般に考えられている転倒・転落よりずっと軽い動作まで広く対象となっています。
こういった現状に対して、各施設では入院時や入所時のアセスメントシートを作成し、事前にリスクを分析し対策を検討しています。また病院では医療安全対策が義務付けられ、医療安全対策委員会が月に1回開催され、起こった事故について報告を受け分析し対策を立てています。これは大変な作業ですが、患者さまの安全を守るためには避けて通れません。
ここからが私が言いたい事になります。医療安全の事を考えない病院や職員はいませんが、次の4つの項目について見直して欲しいと思います。まだまだ不足していると思っているからです。
➀入院時・入所時のアセスメントをアセスメントシートを用いてしっかり行うこと
この評価は看護師だけでなく、リハスタッフも介入し行う事。時には管理栄養士も必要です。
患者さまの状態をしっかり把握する事で、事前に対策を行う事が出来ます。一人で歩行が難しい時には、離床センサーの設置とか、また筋力の衰えがあれば理学療法士の介入を依頼する等、事前に対策を立てる事が出来ます。
②出来れば転棟・転落予防チームを組織すること
専門チームで病棟をラウンドし、新入院の患者さんやハイリスクの患者さんのモニタリングを行い環境のチェックを行う事が出来ます。
専門チームを作る事で、疎かになる事なく必要な事が継続して実施されます。また、専門チームですので常にその事について検討され、質の高い対策も期待されます。
③転倒した後の対策として、病院として包括指示を作っておくこと
医療行為は医師の指示からしか始まりません。転倒があった事で細かく状況を聞き指示を出すのも大変で、「大丈夫そうね」で済んでしまう事もありがちです。健常者からすると転んだだけ、患者さまも余程強い痛みでも無い限りは、「大丈夫」と言いがちですが、大丈夫じゃ無い時もあります。手順に沿って確認や検査を行うべきです。いつ骨折したか分からないという事はよくあります。安易な判断で何もせず、様子を見るという事はよくありません。頭部打撲で死亡に繋がったケースも決して多くは無いですが上記で報告されている通りです。
④インシデンド・アクシデントレポートを必ず作成する事。
個々のケースを分析し対策する事は重要な事です。医療事故の対策として怖いのは、慣れへの対策も不可欠です。常々どういう、インシデント、アクシデントがあると言うだけで、意識するようになります。そのためにはレポートが出される事です。私も多くの病院を見て来ましたが、頑張っている病院は1病棟で月50件近くのレポートが出ていますが、1件も出ない病棟もあります。月50件と言っても、病棟のスタッフ一人当たり2件程度です。頑張ってインシデント・アクシデントを作成して欲しいと思います。
転倒・転落事故は誰にでも起こり、珍しい事ではありませんが、こういった日々発生する小さな事故にしっかり向き合う習慣が重大事故防止に繋がります。
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