前回はレセプト病名について、私の視点で書きました。今回は関連して病名の管理です。医事課視点では無く私から見た病院視点で書きます。
病名については、医師がその症状に病名を特定や進行状況を調べるために必要なたくさんの検査を行います。それらのたくさんの検査には、複数の病名が付く事になります。また、入院中とか外来を継続するようになると、眠れない、肩が凝る、背中が痒いという症状の訴え等があり、眠剤、湿布薬、軟膏などが出され、それらに対応した病名が付きます。
この付いた病名に対し、転帰という作業が行われなければ、レセプトにどんどん病名が増え続ける事になります。転帰というのは「治癒」と「中断」といった「転帰区分」をレセプトに表示する事を言います。つまり、病気が治ったとかこの病気に対しては診療を中止するという意味で、転帰区分を付ける事で転帰区分が付いた病名は、翌月からレセプトに表示されなくなります。
病院の運営システム、医事課のスキルが低いとこの転帰を付ける作業がうまく行かず、治癒した病名、不用な病名が残ったままになります。私が過去に見た状況では病名が50個以上付いているのを見た事があります。非常にリスクの高い状況です。どんなリスクがあるかは以下のとおりです。
1) 支払基金や国保連合からの信頼を無くす
ずいぶん前のお話ですが、あるクリニックで初診患者に付いている病名が平均10個以上あるという事で調査が行われました。その結果過剰診療で摘発されました。そして保険医療機関の指定取り消しになったように記憶しています。病名が多いということは、最悪の場合こういう事にも至ります。ただ、支払基金や国保連合といった審査機関は請求金額の高いレセプトに着目し、低いレセプトには着目しないので低いところはあまり心配も無いかも知れません。ただ、調査されるまで行かなくても、いい加減な医療機関として認識される事は確かです。
2)病名が管理されていない
多くの病名が残ったままだということは、病名が管理されていないという事です。保険請求の流れはは、➀医事課職員がレセプト点検を行う。②検査や処置に対する病名がモレていないか等の確認。③そのレセプトを医師に届け、足りない病名を医師追加してもらう。④医師に付けてもらった病名を医事システムに入力する。というのが基本です。この流れの中で、この病名はまだ継続するかと個々確認出来ればいいのですが、これぐらいは医事課で判断するように言われたりします。また院内ルールでこの検査の時は基本この病名を付けると言ったルールがあったりします。医師は権威もあり、多忙な事から医事課にその病名付けや転帰を付ける事がシフトして行く事になります。そして消すべき病名が残ったままとか、いつの間にか病名が変わっているという事が発生するかも知れません。
3)電子カルテの病名とレセプトの病名の整理
電子カルテが普及しだすと医師は、電子カルテに病名を入力する。入力された病名は医事課のシステムに送られるという流れが出来ました。しかしながら、医事課で入力された病名は、電子カルテに送られる事はありません。診断し病名を付けるというのは医師だけに許された業務だからです。また、医事課職員が医師に付けてもらった病名を電子カルテに入力する事は出来ません。セキュリティや権限などが与えられないからです。今では医師事務作業補助という職種が定着し、それにあたっているところもあるかも知れません。仮に入力出来たとしても、不必要な病名は見たくないという事で、医師から抵抗があったりします。ここでも病名管理が複雑になり、手作業が発生する事で入力ミスなどが発生するリスクが増えたといます。
最近の課題としては、電子カルテと医事システムの病名の一致も調査の対象となっています。不一致となれば、不一致自体が違反行為ですし、過剰診療とみなされる事もあるかも知れません。
4)ワープロ病名
病名の入力は、標準病名マスタに沿って入力する事が基本となっています。そこにある病名はすべてコード化されており、データベースのデータとして活用出来ます。厚生労働省は医療データを活用するために「データ提出加算」という点数を設定し、送付されて来たデータにエラーが多いとペナルティとして加算を取り消すというルールも作っています。この「データ提出加算は」単独の届けですが、この届出を出す事が前提となっている他の届出も少なくありません。そんな.「データ提出加算」のエラーの一つに該当するのがワープロ病名です。よって、ワープロ入力の病名があると、自院でのデータ分析にも影響しますが、他の届出にも影響し場合によっては収入も大きく下がる事があります。
5)患者側への弊害
1)~4)は病院の問題ですが、病名が管理されていない場合にはなっても無い病気に掛かっているという事にもなるかも知れません。また病名がレセプト消えているという事になれば、その病気は治癒または中断しているという事になるかも知れません。例えばレセプト上の疑いの多くは、病名として患者さまに告げられる事はありません。レセプト上のみ必要な事が多いためです。その病名が残っていると、保険契約等の段階で以前からこの病気で治療を受けていると指摘される事も無いとは言えません。また、病気によっては公費補助の対象となるものもありますが、中には〇年以上治療を継続している事という条件があったりします。病名がしっかり管理されていないと、患者さまが不利益を受ける事もあるのです。
次回は対策についてお話します。
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